2020年、「これからの社会に必要なみどりについて考え、実践する」をテーマとして活動をスタートしたSOCIAL GREEN DESIGN。ユニマットリックはこの理念に賛同し共に活動を続けています。これまでの活動の中で見えてきたキーワードは「関係性を見つめなおすこと」。人と植物、地域と緑地、市民と行政など、さまざまな関係性について、みどりを通じて再構築する試みが多くの地域で実施され始めています。

そこで、ユニマットリックでは一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会との共催で2023年10月11日(水)に「社会を醸成する、関係性のデザインを考える - RIK SQUARE! 2023」を開催しました。

※こちらはRIK  SQUARE!のイベント内容を簡単にまとめたレポートです。

みんなの中心だった「春日台センター」をもういちど、まちの中心(センター)に

神奈川県愛甲郡愛川町。人口約3.9万人の小さな町で、地域の人々に愛され続けたスーパーマーケット「春日台センター」が閉店しました。

「春日台センター」をもう一度、まちの中心(センター)にという思いにより、閉店から6年後の2022年3月に「春日台センターセンター」がオープン。春日台センターの跡地を利用し、障がい福祉サービスや高齢福祉サービス、コインランドリーなど、いくつもの機能をもった複合施設として生まれ変わりました。ここでは生きていく上で課題を抱える人々がともに支え合い、ともに生きる環境と文化が、これからの社会のかたちとして日々醸成されています。

プロジェクトを実践したのは、社会福祉法人愛川舜寿会の理事長である馬場拓也さんと、建築家/teco主宰の金野千恵さん。

今回は1つの地域を建築と福祉の融合により再構築したお二人をゲストにお招きし、春日台センターセンターができるまでの道のりや、建築×福祉の将来についてお話しいただきました。また、後半はモデレーターとして三島由樹さん(株式会社フォルク代表取締役社長)、石川由佳子さん(一般社団法人for Cities共同代表理事)、小松正幸(株式会社ユニマットリック代表取締役社長)を交え、5人でのトークセッションを行いました。

「組織」ではなく「人」で連関するコミュニティ

馬場:かつて愛川町は大きな工業団地を抱えていて、そこに来る外国人労働者もたくさんいる地域でした。しかし、バブルが崩壊すると名だたる企業がアジアに進出し、その流れの中で、まちの中心であった春日台センターもどんどん衰退していくんですよ。そこで福祉事業としてマイノリティの人たちと共にまちを動かせないかと考え、金野さんに声をかけました。ちょうどその時に春日台センターが閉店するという情報を耳にしましたね。

金野:初めは商店街の一部を事業所として使用することを計画していましたが、閉店した春日台センターに目張りがされ、防犯カメラが設置されると、みるみるうちに子供たちの賑わいがなくなっていったんです。これは1つシャッターを開けて改善できるものではないと思い、あの土地で何をするべきなのかを考えなおすことにしました。しかし、春日台センターは神奈川県住宅供給公社が所有していたため、すぐに土地や建物に手をつけることはできなかったそうです。そこで、馬場さんは「あいかわ暮らすラボ(以下:あいラボ)」というコミュニティを立ち上げ、熱が冷めないうちに住民参加型のワークショップを実施。初めは15人ほどだった参加者が次第に40人、50人と増えていき、寄り合いのようなものになっていきました。さまざまな催しの中で交流を重ねていくうちに、親の介護や子供の不登校など、住民が抱えている悩みがより鮮明に見えてきたと言います。
馬場:福祉事業では場所や拠点を作って、そこからコミュニティを育んでいこうとするのが通常です。しかし、「あいラボ」を通じて初めに人とのつながりを作っていたことで、春日台センターセンターの完成を楽しみに待つ人が増えていきました。まずは人でつながるということ。結果的に組織ではなく人で連関するコミュニティになりました。

春日台センターセンターが持つ7つの機能

春日台センターセンターには認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護、放課後等デイサービス、洗濯代行・コインランドリー、コロッケスタンド、寺子屋、コモンズルームの7つの機能があります。

馬場:ここでは認知症の高齢者や介護福祉士だけでなく、コロッケを買いに来る人、洗濯物を持ってくる人、放課後に集まってくる子供たちが、ともに同じ屋根の下で過ごす風景が自然にミックスしています。
金野:企画当初は平家でもっとコンパクトな案だったんです。でも協議や収支計算をしていくうちに、これでは採算が取れないことがわかり、だんだん肉付けがされて、最終的に7つの機能をつけることになりました。

これだけの機能を持った大きな施設を作るとなると、どうしても簡単な構造になってしまうもの。しかし、「あのまちの中に大きな箱を作りたくない」という馬場さんの熱い思いにより、何度も話し合いを重ね、現在の春日台センターセンターの形になりました。

つながり・重なりが生まれる空間づくり

プロムナードに大きくはみ出した庇、3つの棟をつなぐ広い土間通り。春日台センターセンターには愛川町の持つさまざまな骨格が組み込まれています。

金野:実は土間通りの床は外から連続しているんです。制度上の区画や線引きが求められるところではありましたが、その線引きをいかにずらしていくか、いかに統合していくかを計算して設計しました。内部と外部をどう解体して、どうオーバーラップさせていくかは、人がどう重なるかということに関係すると思っています。ただ線を引いて大きい箱を作るのは簡単ですが、その線をずらしていくことで人のつながりや交わりが同時に生まれてきます。

馬場:見えるところで洗濯物を干している高齢者がいる。それを見ていた子供たちが「ここで洗濯物を干しているおばあちゃんがいたな」と、10年後に言うかもしれない。そして、その子供たちが後の受益者になっていく。こういう奥行きのある営みを1つ1つ仕掛けています。どこかスタイリッシュな建物にも見えますが、実はここにいる人たちの7割は何らかの課題を抱えているんですね。「うちの母を一人暮らしさせるのは限界だろう、と東京に住む息子夫婦に言われてね。」とか、「夜中の2時に鍋を火にかけたまま寝ちゃって息子に怒られてしまった。」とか。でもこれが現実なんです。そんな高齢者を見た時に、私たちは「歳はとりたくないな」と思うんですよ。全員が老いに向かって生きていく中で、私たちの行先を悲壮感の漂うものにしたくないというのがベースにありました。そのために、子供たちがじわじわと高齢者や障がい者に触れ合い続ける接続点をまちの中に作っていき、交流人口に注目しながら介護保険事業を進めていく。その時点で二重構造・三重構造のサービス提供になっているんじゃないかと考えています。そのためには建築家とグリーンが絶対に必要ですね。

高齢者が食事をしている中を自由に子供たちが出入りしたり、庇の下にあるベンチで若者と高齢者が会話をしたり。自然にコミュニティが生まれるような空間は、時間をかけて議論をしていく中で作ることができた部分だと言います。

また、春日台センターセンターは2023年に日本建築学会賞(作品部門)とグッドデザイン賞金賞を受賞。「影の仕事と言われている福祉や子育てを内包し、その営みも含めて評価してもらったことは、社会的な意義があると感じている」と馬場さんは話しました。

トークセッション:共通認識は「屋根付きの半屋外空間」

三島:建築士やデザイナーはどうしても「ここを見てほしい」と主張をしたくなるものですが、春日台センターセンターはいい意味で風景のバックグラウンドになっていると感じました。建築が前景化しない場所づくりをするにあたって、インスピレーションを受けたものはあるのでしょうか。

金野:良い質問ですね。私の中では地味を目指しているわけではありませんが、建築がシンボルになるというより、人がまちに定着していく風景に何が必要かを常に考えています。だから人の振る舞いが前面に出て、建築が後景化するんです。とはいえ、空間を立ち上げていくには分かりやすい共通言語がなければならない。その1つが「屋根付きの半屋外空間」でした。

15年ほど前から世界中の「屋根付き半屋外空間」について研究をしている金野さん。研究を進めていく中で、ネパールで出会った「パティ」に心を掴まれたと言います。パティとはパブリックスペースにある東屋のようなもの。ここは新聞を読んだりカードゲームをしたり、はたまた知らないおじいちゃんと会話をしたり、誰もが自分なりの時間を過ごすことができる空間です。中でも外でもない、家でも職場でもない居場所というのが、春日台センターセンターを作る上での共通認識になっていたようです。

馬場:パティを見たときに、こういうことへの眼差しが大事だなと思いました。だれもが規定されず、一定時間居場所として成立する「中間領域」。こうした風景の中に、高齢介護課や保育課、障がい福祉課、子育て支援課の縦割りが緩やかに関わり合うためのヒントがあると思います。

石川:中間領域はつながることと個を尊重することを内包できる場所だと感じます。なぜ日本には中間領域が少ないのでしょうか。

金野:半屋外の空間はめんどくさいんですよね。また、合目的な空間ではないのでカットしやすい。賃貸住宅にあるテラスが価値づけしにくいのと一緒だと思います。価値をどうやって認め、共有して実現していくか、強い意志がないと簡単に諦められる場所なんです。私の建築にはそういった空間が多いので、実際に空間を見てもらったり、バックボーンを詳しく説明したりして認めてもらえるようにしています。

馬場:結局は「その床でいくら稼げるのか」が重要視されているからカットされるわけです。だけど「人間とは」に着目して考えると、暑い・寒い、つらい・楽しいの2辺じゃない。ちょっと楽しい、ちょっとつらい、こうしたものが中間領域だと思うんです。スマートフォンの普及により個で生きられる時代になった今だからこそ、中間や曖昧さをどう定義していくかが重要だと考えています。そこにマイノリティが参画できる仕組みが必要だと発信していきたいです。

これからの社会で求められる建築×福祉

少子高齢化や介護問題が叫ばれる今、造園業・エクステリア業を営む私たちが福祉に目を向け、ともに社会を豊かにしていくためには何をするべきなのでしょうか。

金野:こうした空間づくりは、縦割りで分業して「ここだけ企画してください」というものではないんですよね。人間の生き方にも通じますが、中と外をはっきり分けるのではなく、「なんとなく緑に近いけど距離が取れている」とか「香りがあるけど見えなくてもいい」とか。そういう曖昧さをどう一緒に考えていけるかが大事です。これまでの先入観を捨てて、共に新しい環境を作っていけると楽しいと思います。

馬場:その中でのコミュニケーションの取り方が、設計者や施工者、デザイナーにとって重要だと思います。緑が入ることで建物が2倍も3倍も素敵に見えたり、安らげる空間のように感じさせてくれる。工期としては最後の部分ですが、設計者とエクステリアの人たちが諦めずに話し合い、仕上げていく工程が本当に大好きです。

小松:大事ですね。造園・エクステリアは一番最後の部分なので、建築の余った部分でやらざるを得ないことが多いんです。コンセプトを理解し、目的に向かって一緒に作り上げていこうとする姿勢が大事なんですね。

人の営みや地域の文化を含めた空間のデザインには、人とまちの関係性や事業者同士の関係性を見つめなおすことが大切です。そこには1つとして同じものはありません。その地域における課題を見つけ、互いに歩み寄って考えていくことがこれからの社会に必要だと感じます。 「外側にいる人たちが福祉に目を向けることで、社会全体が少し優しくなる。デザインや建築はそのための手段であってほしい。」と馬場さんは話します。


※アーカイブ動画では、春日台センターセンターを含む3つのプロジェクトについて詳しくご紹介いただいております。笑いあり苦労ありのお話をぜひご覧ください!

RIK SQUARE! 2023概要はこちらから
https://www.rikcorp.jp/events/20231018/1162/