伊礼智氏「街と家の“間”を考える~建築家が考える外部空間の役割とは~」

2018年11月29日に開催されたリックスクエア「2020年以降に求められる住宅・エクステリアの価値の作り方」の第二部、建築家・伊礼 智 氏によるセミナー「街と家の“間”を考える~最高の住まい空間をつくる建築家が考える外部空間の役割とは~」のレポートをお届けします。


伊礼智氏は沖縄県の嘉手納出身です。沖縄の外部空間には「やわらかな境界、ゆるやかなつながり」があるといいます。沖縄の家が伊礼氏の設計に多大な影響を与えているとのこと。その一つが沖縄の家によくある「ヒンプン」と呼ばれる環境装置のような役割を果たす塀。家の門の内側にある目隠し塀だそうです。

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ヒンプンの一つめの役割は目隠し。二つめは魔除け(沖縄の魔物は角を曲がるのが苦手なため、直進して入ってこないように魔除けの意味もあるそうです)。三つめは人の動きを振り分けています(男は右から入る、女は左から入る)。町と家をゆるやかにつないでいるのはヒンプンがあるおかげかも、と伊礼氏は言います。簡素でプロポーションが美しく、町を引き込むようなアイテムでもありながら、ゆるやかに防御している塀。ヒンプンの材料は石でも土塀でもブロックでもなんでもいいそうです。沖縄の家にとっては「ヒンプンがあることが大事」なんだそうです。

さらにもうひとつ、伊礼氏の設計に影響を及ぼしたものが沖縄の家の中にあります。「アマハジという内と外の間」の領域。アマハジとは軒下のこと。外だか中だかわからないあいまいな空間。子ども達の遊び場であり、大人たちのコミュニティの場として成立しています。

また、海とともに暮らすので「海と陸のあいだ」も身近です。沖縄は「あいだの空間」がとても豊かな特性があります。そんな特性だからこそ、ゆるやかに家と町がつながっているのかもしれません。


ここからは実際に伊礼氏が設計した家の解説や裏話などをお話しされていました。

守谷の家

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「建物は低く作ると美しくなる、中に入ると広がるような設計にしなさい」と自分の師から言われてきた伊礼氏。この守谷の家は家の裏側が北側が遊歩道で緑が豊か。北側に開口を広くあけ緑を取り込み、家の周りに小さな庭を点在させ、みどりを散らせたような設計にしたそうです。伊礼氏はどんな家でも低くつくると品がでると話していました。「高さを抑えられるなら抑えたい」という持論があるそうです。

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外の景色が美しく見えるところ開口部をあける、逆に景観がよくないところには無理して窓はあけなくてもいいと思っている、とお話しされていました。開口部分がたくさんあれば解放感があっていいのでは、と思い込んでいたので驚きでした。


南与野の家


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造園家の荻野さんと仕事をすることが多い伊礼氏。荻野さんは立面から作庭を考えられるそうです。自然の風景を再現するように、生け花のように植物を植える荻野氏。


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庭は川の上流の景色を再現しています。根鉢処理をしているので樹木は倒れないように配置されています。川砂利を敷いており、脇にいくと大きい砂利が配されより自然の形に近い工夫がされています。右の塀に開口がありますが、これは風を取り入れるために塀に穴をあけたいと荻野氏からの要望があったからだそうです。風に乗って運ばれてくる花の香りを感じられるようにするためなのだとか。また、隣人や街行く人にも庭の景色がおすそわけできます。


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庭でのライティングでアッパーライトを嫌う荻野氏。アッパーライトで出る植栽の影は不自然でよくないと著作などでも説いていらっしゃいますね。上からのライトを希望されたが設計的に無理だったため、デッキの下に光源を入れて壁を白壁にして間接照明のように光を反射させたら良い仕上がりになったそうです。


下田のゲストハウス


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あまはじ(軒下)を生かした空間のゲストハウス。設計はパーツごとに標準化しているそうです。標準化しているものをベースに設計することも。標準化をベースにした設計でもワンパターンにはならない、と伊礼氏。


琵琶湖湖畔の家

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この家のテーマは「風景を取り入れ、風景に溶け込む住まい」だそうです。荻野さんは琵琶湖の植生を分析し、その植生に即した植物を配置、琵琶湖から庭へと繋げました。


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北側に琵琶湖を望めるので、北側に大きな開口部をとり庭と琵琶湖が楽しめるように北にむかって開いた家にしたそうです。

ガゼボでヒンプンを作成したこの家、荻野氏が「伊礼さんらしい、どこか沖縄らしさのある家」と評したそうです。「ゆるやかに町とつながっている住宅が創れた」と伊礼氏。